「後ろで踊っているくらいが好き」。かつてはそう語っていた乃木坂46・齋藤飛鳥だが、いまや堂々とした笑顔でグループのセンターを張り、映画主演作では後輩メンバーをけん引する存在にまで成長している。「デビュー当初は感情の起伏が激しかった」「ひとり好きで集団生活が苦手」「常に自信がない」など、これまでアイドル“らしくない”一面を覗かせることもあった齋藤。同期である1期生・白石麻衣のグループ卒業を控え、彼女に芽生えた新たなアイドル意識とは。
自分の作品に対して自信がなくなるシーンに激しく共感「心配な気持ちは常にある」
――9月25日(金)に主演映画『映像研には手を出すな!』が公開されます。人気コミックの実写化主演オファーを受けた際、どのような気持ちでしたか。
齋藤飛鳥独特な世界観が広がっている作品なので、「これ本当に実写化できるのかな?」というのが正直な印象でした。私が演じた主人公・浅草みどりも、現実にはいないような、一言でいえば“変人”で、自分と全然違うタイプの役柄を演じたことも初めてだったので、最初はすごく手こずりましたね。
――どのように役作りをされましたか。
齋藤飛鳥とにかくクセがある役なので(笑)、監督と細かい仕草や口調までたくさん話し合って役作りしていきました。今まで自分の性格に近い役柄の方が演じやすいと思っていたのですが、全然違うタイプの役というのも、ある意味役として入りやすいということもこの作品での発見でした。浅草みどりを演じてから、プライベートでも「印象が違う」と言われるようにもなって、殻を破るきっかけになった作品になった気がします。
――演じていく中で、“変人”浅草みどりに共感できる部分はあったのでしょうか。
齋藤飛鳥浅草が、ものすごい労力と時間をかけて作った自分のアニメ作品に対して自信がなくなってしまうシーンは、すごく共感できてセリフを言いながら泣きそうになりました。私も自分のパフォーマンスや制作物に対して、周りの評価が気になって怖くなることがあるので。それでも、金森が放った「あんたが好き勝手にやるしかない」というセリフもすごく共感できて、自分自身も励まされる言葉でした。
――いつも堂々とされている印象がありますが、自信がなくなることもあるのですね。
齋藤飛鳥しょっちゅうありますね。色々なことに対して自信が持てないのは、もともとの性格としてあるんだと思います。それでも最近は、自分のことをごまかす方法を身に着けられるようになってきた気がします。心配な気持ちは今も常にありますけど、そんなに気にしても仕方がないと割り切ったり、次に気持ちを切り替えたりするようになりました。
――切り替えられるようになったのはどうしてでしょうか。
齋藤飛鳥やっぱり乃木坂46のメンバーの存在が大きかったと思いますね。メンバーとの距離感がうまくつかめなかった時も、私がキャラを迷走していた時も、いつもどんな私も受け入れてくれて、受け止めてくれて、時には「最近人間らしくなったよね」と言われたり(笑)。私のコンディションによって放っておいてくれる時もあれば、かまってくれる時もあって、本当に育ちが良い人たちだなと感じます(笑)
「うまく距離感がつかめなかった」友人でも家族でもないメンバーとの関係性に変化
――メンバーと距離感がうまくつかめなかった時もあったのですか?
齋藤飛鳥ありましたね。初期はまだ何もわかっていなかったし、気を遣うこともなくて自由に遊べていたんですけど、中学も高校もだんだん行けなくなって、乃木坂46の活動ばかりになってくると、私が色々難しく考えすぎてしまって。メンバーは友人ではなく仕事仲間なのだから、仲良くしすぎちゃいけないのではないかとか。気軽に何でも話せるような存在を自分から作ろうともしていなかったので、余計それで自分を苦しめていた部分はあるかなと思います。
――そんな中、今回メンバーの山下美月さん、梅澤美波さんとのご共演はいかがでしたか。
齋藤飛鳥これも先輩の私の責任だなと思うのですが、2人とも後輩で、これまであまり話したことがなくて。梅澤は私に対して激しくツッコんだり、叩いたりするシーンがたくさんあったので、特にやりづらかっただろうなーと思います(笑)。実際、遠慮して良い音がならなかったり、ちゃんと叩けなかったりしてNG連発してました。でも、当て損なうと余計痛いんですよ(笑)。だから、NGの数を毎日わざと数えて、「今日7回目だから、何で返してもらおうかなー」とかいじったりしていました(笑)。
――先輩の優しさですね。3人の掛け合いが肝となる作品だったと思いますが、テンポの良さや仲の良さをすごく感じました。
齋藤飛鳥本当に、この3人だからこそできた作品になってるんじゃないかと思います。番宣コメントとかでも、私が先輩ですけど、何を言うか困ったら山下・梅澤にじーっと視線を送れば、感じ取ってフォローしてくれるようにもなって(笑)。これまで、集団生活や人付き合いに対して苦手意識があることもありましたが、山下・梅澤をはじめ、メンバーとの関係性を築けたことで、私にとって自信になって、すごく良い影響をいつももらっています。
後ろで隠れていた少女に芽生えた“責任感”と“グループ愛”「今の乃木坂46に対する自信は7割」
以前はグループの中でも後ろで隠れていたかったという齋藤飛鳥(C)oricon ME inc.
以前はグループの中でも後ろで隠れていたかったという齋藤飛鳥(C)oricon ME inc.
――以前、性格的には「後ろで踊っているくらいが好き」ともおっしゃっていましたが、今ではセンターで踊ることや前に立ってお話する機会も多いと思います。中心メンバーとして求められることに対してはどのように感じていますか。
齋藤飛鳥そこに対しても、最初は本当に後ろで隠れていたいし、コメントもお願いだから私にふらないでと思って下を向いていたこともしょっちゅうあったんですけど(笑)、最近はようやくセンターでもちゃんと踊れるようになってきたと思います。やっぱり1期生メンバーの卒業も何度か見てきて、この人たちが残してくれたもの、築いてくれたものを受け継いでいかなきゃいけないという責任のような気持ちが芽生えてきたんだと思います。今回、『映像研』で山下・梅澤に後輩との接し方も教えてもらったので(笑)、これからはもっとちゃんと後輩ともコミュニケーションをとって、グループ全体を見ていけるように頑張らなきゃなと思っています。
――さきほど“心配性”のお話もありましたが、今後白石麻衣さんの卒業も控えた乃木坂46に対して、自信と不安、どれくらいの割合でしょうか。
斎藤飛鳥うーん…、難しいですね。最近は外出自粛の影響もあり、エンタメの形も大きく変化して、この状況でアイドル活動をさせていただけていることに対して、すごく感謝の気持ちが大きくて。その感謝の気持ちを、何とか皆さんの笑顔や元気に還元したいという強い気持ちで1つ1つの活動に打ち込んでいるので、自信7割はあるかな(笑)。あとの3割は、皆さんに飽きられてしまわないように常に新たな挑戦をしていかなきゃ、という気持ちもあります。私個人としても、良い意味で「アイドルらしくない」と言っていただけることが多くて、前は素質がないのではないかと悩むこともありましたけど、「アイドルらしくない」からこそ、新たなアイドル像を作り出したり、既存の形にはまらないような存在になったりしていけるように、アイドル活動でも、演技でも、どんどんチャレンジしていきたいと思います。
乃木坂46・齋藤飛鳥、周囲の評価に「怯えることもあった」
乃木坂46の1期生・齋藤飛鳥、3期生の山下美月と梅澤美波が出演する映画『映像研には手を出すな!』。“最強の世界”を夢見てアニメーション制作を志す3人の女子高校生の青春ドラマを描いた本作で、超人見知り&超天才監督の主人公・浅草みどりを演じた齋藤。役を通じて「周囲の評価に怯えることもあった」という10代の頃の自分を思い出したという。
浅草と同じように「周りの目がすごく気になる時期があった」
カリスマ読者モデルのアニメーター・水崎つばめ(山下)と、金儲けが好きなプロデューサー・金森さやか(梅澤)と共に、アニメーション映画の制作に青春を懸ける主人公・浅草を演じた齋藤。劇中では、江戸っ子のような口調で話したり、大声を張り上げたりと、これまでの齋藤のイメージを覆すかのような演技も目立ち、苦労もあったという。
「お話を頂いたときは、現実には『こういう人ちょっといないよな』と思うような浅草の雰囲気を実写でどう演じようかと不安もありました。一人で台本を読んでもどうしたらいいか分からず、本読みのときに英(勉)監督とようやく役づくりについて、初めて『声はこういう感じで行こう』とか『動きはこうすれば浅草っぽい』と話し合い、クランクインまでの間に気持ちを作っていきました。
浅草の話す内容も普段の自分とは違うし、大きな声を出す必要もあったので撮影が始まってからも大変でした。初日は、浅草がブルブルと震えながら専門用語をまくしたてる、私たちは“覚醒”と呼んでいた場面の撮影でしたが、のっけから自分にないキャラクターを出さなければいけないのが恥ずかしく、手こずってしまって…。でもそこからだんだんと、時間が経つにつれて浅草への愛おしさを感じるようになり、照れ臭さもなくなっていきました」。
人並み外れた空想力を武器に、アニメーションの世界を描き出す浅草。創作へ一直線に突き進む一方で、“怖れ”を見せる一面もある。齋藤は演技を通して、そんな彼女と似た部分を感じ取っていたという。
「初めは見つけられなかったのですが、演じているうちに浅草との共通点を感じるようになったんです。浅草は臆病な部分があって、本心を隠すために大げさなアクションや言葉で自分を飾ってしまうんですけど、私も同じように自分の気持ちを隠して、ふざけたり、ごまかしてしまったりする瞬間があるなと思いました。
また、自分の作った映像に対して、周囲からどう見られるかを考えて自信を失ってしまった浅草にもすごく共感しました。私も表に出る人間として9年以上やってきて、どうしても周りの目がすごく気になる時期があったんです。それこそ10代の頃は周囲の評価に怯えることもあったし、今もそれが完全になくなったわけではないんですけど、浅草の感情がすごく響いてセリフを言いながら泣きそうになる瞬間もありました。金森が『あんたが好き勝手やるしかないでしょ』と浅草を励ます言葉もとても心に残りましたね」。
撮影を通して深まった山下、梅澤との仲
本作の撮影までは、共演した後輩の山下や梅澤と「ほとんど話したことがなかった」と明かした齋藤。しかし、今ではグループのレギュラー番組『乃木坂工事中』(テレビ東京系/毎週日曜24時)や、6日に行われたオンライン配信イベント「第31回マイナビ 東京ガールズコレクション(TGC) 2020 AUTUMN/WINTER ONLINE」などで“映像研トリオ”とフィーチャーされるほど、3人の絆も深まっている。
「この作品でお互いについて、初めて知ることも多かったです。だからこそ距離も縮まったし、映画内の関係性がその後も現実には生きていて、信頼し合っているからテレビ出演のときもイジり合って、上下関係を気にすることなく対等に接することができるようになった気がします。
生まれた年は違うけど早生まれの梅澤とは学年が一緒で(※齋藤が1998年8月生まれ、梅澤が1999年1月生まれ)、山下は1つ年下なんですけど、撮影中も仲良くなるためにあえて頼ってみたりしていたら、すっかりそれが染み付いちゃって。こうしたインタビューを3人で受ける機会も増えたんですけど、難しい質問のときは梅澤をジーッと見ていたら答えてくれたり(笑)。妹のような感じでかわいがってくれているのか、ずいぶん仲良くなれました。
山下は、浅草だけ明らかにセリフ量が多い場面で、私がNGもなくオッケーが出るたびに『やっぱり、さすがっすわ!』と話し掛けてきて。褒められているのに『本気で思ってる?』と聞きたくなるような感じで声をかけてくるんです(笑)。撮影現場で好きな干しイモを食べていても『やっぱり干しイモを食べてるからそんなにスタイルいいんですね。すごいっすわ!』と言ってきたり、ほとんどの会話がそんな感じでしたね」。
先輩と後輩の垣根を超えられた一方、撮影中には山下と梅澤に支えられた場面もあった。
「そんな2人ですけど、梅澤は本読みの段階ではぎこちない部分があったのにもかかわらず、本番に向けて金森をしっかり仕上げてきていたことに根っからの真面目さが出ていたし、山下もスタッフさんと上手にコミュニケーションを図りながら現場を盛り上げてくれていて、2人の存在に助けられていました」。
■めちゃめちゃ褒められたいタイプです(笑)
メガホンを取った英監督は、齋藤いわく「ちょっと人見知り」。齋藤が、浅草を演じるときに着用しているウイッグを取り、“齋藤飛鳥”に戻った瞬間には「ああ、もうしゃべれない」「もう浅草じゃない」と人見知りを発揮していたそうだが、それは自身の手応えを感じる瞬間でもあったという。
「英監督は、浅草のウイッグを付けているときだけ同級生のようにくだけた感じで話しかけてくださったんです。でも、浅草でなくなった瞬間に態度が変わったのは、役柄になりきっていたときはきちんと彼女として見てくれていた証拠だと思うし、自分が満足に演じられていなかったらそうはならない気もして。少しでも監督が思う浅草に近づけていたのかもしれないと思うと、良かったのかなと思います」。
監督は「褒めて伸ばすタイプ」で伸び伸び演じられたという齋藤。「ちなみに褒められたいタイプ?」と尋ねると、笑顔で答えてくれた。「めちゃめちゃ褒められたいタイプです(笑)」。
映画『映像研には手を出すな!』は9月25日より全国公開。