齋藤飛鳥インタビュー いつのまにか、ここにいる

ミリオンセールスを連発するなど、いまや国民的人気を誇る乃木坂46。だが、昨年には中心メンバーの西野七瀬の卒業など、大きな変化もあった。そんなグループの葛藤を描くドキュメンタリー映画第2弾では、次期エース・齋藤飛鳥にもフォーカス。大人数の女子グループに所属しながら、「ひとりが好き」という独特のスタンスを貫く齋藤は、乃木坂46であることに何を感じているのか? 「しんどかった」という学校生活の悩み、それを救った存在、そして現在のメンバーとの関係性など、齋藤が本音を語った。

『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』は、2015年に公開された『悲しみの忘れ方~』から4年ぶりとなる、乃木坂46のドキュメンタリー映画第2弾。2017年から現場に監督とカメラが入り、密着した数々の貴重映像をはじめ、西野七瀬の卒業を機に、自分探しの旅に出るメンバーたちの心の葛藤と成長、偽りのないリアルな物語が映し出されている。

――まず、本作をご覧になっての感想を教えてください。

齋藤飛鳥 私はいち視聴者として純粋に「今の乃木坂46の内側を見たいな」と思っていたので、ちょうどいいタイミングだなと思いました(笑)。このドキュメンタリー映画を通して、客観的に乃木坂46というグループを見ることができて、メンバーのことを知ることができてありがたかったです。

――いち視聴者であり、もちろんメンバーでもあるわけですが(笑)。大スターとなった乃木坂46の一員であることは、齋藤さんにとってどんな意味や影響がありますか?

齋藤飛鳥 レコード大賞や紅白歌合戦といった大きな舞台の裏側も描かれているので、それを見ると「みんなすごいな、乃木坂すごいな」って(笑)。普段接しているとわからないけれど、真正面から現実を見ているメンバーもいれば、すごく向上心が高いメンバーがいたり、誰にでも必ず尊敬できるところがあるんです。そんなすごい集団に私がいさせてもらえるのは、幸せなことなんだなって改めて感じました。

――西野七瀬さんの卒業についても取り上げられていますが、それに関しては?

齋藤飛鳥 かなり濃く描かれているので、見ていてつらくなるファンの方もいるかもしれないですが…。卒業は、決してネガティブなことではないんだなと思いました。卒業に対するメンバーの考えも聞けたし、今は3期生や4期生といった後輩がどんどん育ってきている。だから、グループとして不安に思うことは、実はそんなになかったりするんです。

――齋藤さんは現在、乃木坂46のエースと呼ばれていますが、プレッシャーを感じることは?

齋藤飛鳥 正直、プレッシャーを感じることはないですね。時々エースと言われる方がいるようなのですが、私にはエース感がないので(笑)。いい意味で、そんなに気負ってはないです。

――本作では、齋藤さんの心情に踏み込んだ部分も多かったですが、ご自身ではいかがでしたか?

齋藤飛鳥 岩下監督は、ドキュメンタリーを撮る以前から現場にいることが多かったので、私たちにとっては馴染みのスタッフさんだったんです。しかも、会話をしながら、自分の話もたくさんしながら撮る方だったので、心を開きやすくて。こちらも促されて言葉が出てくることがすごく多かったんです。私、いつもは「言葉を選ばなきゃ」とか、「こういう場面ではこういう雰囲気のことを言わなきゃ」と考えてしまうんですが、監督の前だと、そういうことを考えずに自然と言葉が出てきました。この人になら任せて大丈夫、という安心感があったので、私もありのままの姿をさらけ出すことができたんだと思います。

――劇中では齋藤さんのメンバーに対する素直な心の内も吐露していました。何か心境の変化があったんでしょうか?

齋藤飛鳥 みんなが私のことをすごく受け入れてくれているということと、私もみんなに歩み寄ろうとしていること、どちらもあるんだと思います。昔は、みんながワイワイしているところを見ても、「私はいいや。私がいたところで盛り上がりが増すわけじゃないし」と思って、ひとりを選んでいた部分があったんです。でも今は、私もみんなと一緒にワイワイしたいと思ったら、自分からためらいなく寄っていきますね。

――それはすごい変化ですね。

齋藤飛鳥 たまにですけどね。気ままに過ごしています(笑)。ひとりの時間も好きだし、みんなが楽しそうにしている姿を眺めているのも好きだから。無理することなく、自分の気持ちを優先させてあげるようにしています。

――齋藤さんは一見、自分を優先しているようで、実は周りの空気を読んだり、ものすごく客観視しているように感じたのですが。

齋藤飛鳥 自分のことも周りのことも、どうしても俯瞰で見たくなっちゃうんです。ずっと昔からそうなんですよね。高校生のころなんて、まだ若くて人生経験も浅いから、俯瞰したところで見られる範囲も狭い。偏った思考になっちゃうから、あまり良くないなっていうのをどこかで気づいてはいたんですけど、「私はこういう生き方でいくんだ!」と決めちゃっていたところがあったんです。

――頑なになっていた、と。

齋藤飛鳥 今思うと、嫌な子どもだったなって(笑)。当時の私はただ背伸びしていただけで、そのぶんつらくなっていたんだって、今になってやっと気づいたんです。乃木坂46になってからも、できるだけ周りのイメージに答えようとしていて。それが正しい道で、求められていることだとずっと思っていたんですけど、案外否定しても大丈夫なんだなって思いました。今回のドキュメンタリーは、自分を見つめ直すきっかけになりましたね。

――劇中では同窓会に参加する場面も出てきますが、今あらためて当時を振り返ると?

齋藤飛鳥 地元にいたころの自分も好きじゃなかったんです。でも久しぶりに地元に帰って、同級生たちに温かく迎えてもらって、過去に立ち返ってみるのもたまには悪くないのかなと思いました。当時は先生や周りの人たちが一生懸命向き合ってくれようとしたんですけど、「わかるよ」と言われても、「何を理解してるの?」って、それすらもしんどくて。でも唯一母親は、「無理することない」と、そんな私を受け入れてくれたんです。

――お母さんの存在が大きかった、と。

齋藤飛鳥 救われましたね。今も、仕事のことや悩みの相談なんてまったくしないんですけど(笑)、たまにお家に来てもらってちょっと会話をするだけでも、なんとなくわかってくれる。気持ちがリセットされるんです。

――齋藤さんと同じように、学校に馴染めなかったり、悩んでいたりする人も多いのではないかと。

齋藤飛鳥 誰にでも、そういうときはあると思うんです。私自身、小さいころにちゃんとした人間関係を作ってこなかったことで、苦労したり、つらいと思ったりしたことは何回かありました。でもそれは、予想できる範囲のつらさで、ズドンとくる重みではなかったんですよね。だから自分では、無理することはないんだと思っています。

――ダメなときは、いくらもがいたところでダメですしね。

齋藤飛鳥 はい。当時の私と同じように悩んでいる方も、「これは仕方のないことなんだ、意外となんとかなるものなんだ」と思って、自分に無理をさせないことが大事だと思います。

――では最後に、ドキュメンタリーを観る方にメッセージをお願いします。

齋藤飛鳥 西野の卒業からまだ立ち直れていない人も、乃木坂46に対して明るい未来を待ってくれている人もいると思います。このドキュメンタリーでは、メンバーのたくましさが見えますし、みんなで同じ方向に向かって進んでいけると感じていただけると思います。たくさんの方に、ぜひ私たち乃木坂46のを知っていただけたらうれしいです!

齋藤飛鳥、乃木坂46で得た「人間力」

『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』から4年、アイドルグループ乃木坂46のドキュメンタリー映画第2弾『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が7月5日より公開される。2017年から2019年の活動を追いながら、グループの中核を担ってきた1期生・西野七瀬の卒業に揺れるメンバーの苦悩や葛藤が映し出される本作。同期として活動を共にしてきた齋藤飛鳥が、映像を通して改めて実感した心の成長、旅立つ西野への思い、さらには自身の卒業について赤裸々に語った。

なぜ、アイドルになったのか

「カメラが回っていても、全く気にならない。いつもと同じ、自然なわたしがそこにいた」という齋藤。今回は「グループの裏側に入り込みながら、個人にもしっかりフォーカスを当てていたので、メンバーそれぞれの気持ちも含めて、わたしの知らないことがたくさんあった。そういう点では、すごく新鮮でしたね」と笑顔を見せる。かくいう齋藤は、人とつるむことを好まない。一人で本を読み、一人でご飯を食べ、周りと談笑することもなく、壁にもたれながら本番を待つ姿が映し出される。「メンバーと話すことが嫌いなわけじゃないんです。ただ、選択肢として一人でいる方が好きだから」。

自分に興味がなく、率先してスポットライトを浴びることがむしろ苦手だという齋藤。そんな彼女がなぜ、アイドルになったのか。「AKB48さんとかハロー!プロジェクトさんとか、キラキラした世界に憧れはあったけれど、自分がそこに入りたいと思ったことはなかった。ただ、地元の学校で集団生活が上手にできていなかったので、それを見かねた母や周りの方にオーディションを勧められて受けることに」と述懐する。加入当時まだ13歳、あまり深く考えず、言われるがままにオーディションに臨んだという齋藤だが、結果は見事合格。唯一興味があったのは「アイドルという集団の中に身を置くことによって、自分がどんな経験をし、どう変わっていくのか?」という部分。あくまでも人間的な成長が、彼女のアイドル人生の原点なのだ。

乃木坂46に入って8年、センターを務める責任

ところがそんな齋藤も気がつけば、センターを任されるほどの人気者に。「最初は『なんで齋藤なの?』という乃木坂ファンもいたでしょうし、わたし自身も『え、わたしなんだ……』という感じで、少し窮屈な感情を抱いていたんですが、最近はその責任を感じつつも、センターだからといってあまり重く考えないように心がけています」とニッコリ。「性格的には後ろで踊っているくらいが好きなんですが、ただ、『裸足でSummer』や『Sing Out!』はライブですごく盛り上がる曲だし、ファンの方も思いっきりノッてくれるので『楽しかった!』という思いはありますね」。

乃木坂46に入って8年、もはやグループの中心メンバーとして欠くことのできない存在になった齋藤。かつて自身が興味を寄せていた「成長」は見られたのだろうか? 「自分でも実感しているんですが、周りからもすごく言われます。例えば、卒業した生駒ちゃん(生駒里奈)や、いくちゃん(生田絵梨花)、真夏(秋元真夏)とかから『最近、人間味が出てきたね』って(笑)。意外かもしれませんが、今までは『わたしは人からこう見られているから、こういう面は出しちゃいけない』とか、『人前ではこういう言葉を使った方がいい』とか、自分の勝手な判断で(ルールを)決めていたんです。でも、今になって、その判断が『間違っていた』と思うことが多くなってきて」と言葉をかみしめる。

卒業は「タイミングが来たら考えるかも」

それに気づかせてくれたのが、乃木坂46だと齋藤はいう。「自分の間違いに気づいてからは、『見せちゃいけない』と思っていた部分もだんだん出すようになって、それによって自分も変化し、人に見られることも怖がらないようになった。それが、メンバーの目に『齋藤は変わった』というふうに映っていたと思うし、わたしを優しく受け止めてもくれた。だから、乃木坂にいなかったら、こういう変化はなかったと思う」と感慨深い表情を見せた。

本作では、西野の卒業を軸にメンバーの苦悩や葛藤、成長が描かれているが、同期の齋藤は「卒業を決断できること自体がすごいこと。素直にかっこいいなって思いました。わたしには将来の目標が全くなくて、今後も出てこないような気がします。どちらかというと流れに身を任せるタイプなので、なんとなく『今かな?』というタイミングが来たら考えるかも」。齋藤飛鳥、20歳。乃木坂46にはまだまだ彼女のパワーが必要だ。